日本の税制度は、基本的に資産を持っている者から税金を徴収して資産に余裕のない人々の補助をする所得の再分配方式なので、「資産を持っている親から子への財産移転」に対する課税が厳しいです。
ただし、税制度に関する知識と十分な準備時間があれば、贈与税や相続税の負担を抑えられます。相続税を抑える工夫の一つが、不動産投資です。
こちらでは、不動産投資を使った相続税対策をする際に知っておきたいポイントや注意点をお伝えします。
親から子へ不動産投資で相続税対策
「不動産投資が相続税対策になる」とされているのは、相続税の課税システム上、現金よりも不動産を相続させた方が納税額を小さくできるからです。相続税の基本的な課税の流れは、以下のようになっています。
- 相続財産の価値を現金換算する
- 現金や不動産の評価額を合計し基礎控除や特別控除を適用する
- 相続財産の評価額から必要経費・控除等を差し引いた額に税率をかける
- 適用される税率に合わせて控除を行う
ポイントは、「不動産のようにすぐ現金化できない財産に関しては、時価以外の基準で評価額を計算する」という点。不動産は売却に時間もかかりますし、持っている限り固定資産税を納める必要があります。土地や建物の評価額を時価で計算すると、たまたま地価が高騰した際にマイホームや実家の相続に対しても莫大な課税が発生してしまうため、相続の世界では不動産の評価額を時価の7割から8割程度に落ち着いている「路線価」や「固定資産税評価額」で求めるのです。
1億円の現金を相続すると「1億円」に対して課税されますが、1億円で買った不動産を相続すると「7,000~8,000万円」に対する課税ですみます。現金ではなく不動産を相続させたほうが税金面でお得だからこそ、相続対策としての不動産投資が注目されているわけです。
さらに、相続する不動産が、
- マイホーム
- 賃貸や店舗など事業に使用している物件
ならさらに評価額を下げられます。賃貸不動産の相続は、相続後の家賃収入を期待できるという点でも魅力的です。
ただし、「投資する不動産は自分で選びたい」と考える場合もあるでしょう。何もかも親が準備した状態で相続すると、子は投資の経験を積めませんし、親にとって初めての不動産投資なら親側も勉強が必要です。そこで、「親から子へ不動産投資の資金援助をする」際の節税方法をご紹介します。
住宅取得等資金贈与の特例を利用する
住宅取得等資金の贈与の特例とは、
- 2015年1月1日から2021年12月末までの間に
- 直系の親または祖父母から子へ
- 不動産の購入資金またはリフォーム費用
を満たす資金提供を行った場合、一定金額まで贈与税なしで贈与できるという税の特例です。
具体的な非課税贈与の限度額は、贈与を行った年月と贈与を受けて購入する住宅の性能、また贈与で購入する不動産にかかる消費税率によって変わってきます。
2021年時点だと、最小500万円から次第1,500万円まで非課税で贈与可能です。仮に親から子へ生前に非課税で1,500万円贈与しておけば、相続財産を1,500万円圧縮できます。
親子間融資を行う
住宅取得等資金贈与の特例は、非課税で贈与できる金額や贈与の期間が指定されているため、シチュエーションによっては利用できません。
そんなときに頼りになるのが、親子間での融資です。お金や財産を「無料で渡す」と贈与税の対象ですが、「親から子へお金を貸す」場合は贈与にあたりません。そのため、親子間融資を利用すれば住宅取得等資金贈与の枠より大きなお金を融通できます。
不動産投資で相続税対策を行う注意点
節税対策は早め早めに行うことが大切
不動産投資で相続税の対策を行う場合、不動産の購入や贈与を早め早めに実施しましょう。相続税が発生するような案件や相続逃れを目的とした贈与に対して、税務署は常に目を光らせています。多額の贈与や資産の転換が相続の直前に行うと、「相続税から逃れるための行動だ」と判断され、節税の特例等を取り消されてしまう場合があるため、注意が必要です。
また、親が高齢になってから贈与しようと考えていた結果、認知症になったり病気で寝たきりになったりすると、財産の移転に後見人の許可や弁護士の協力等が必要になってきます。親が亡くなってからできる節税対策は限られるため、本格的に相続税対策をしたいなら親子で連携して早目に動きましょう。
収益性の高い不動産を購入しよう
相続税対策として不動産投資をするなら、収益性の高い賃貸物件の購入がおすすめです。居住用の住宅は維持費が出ていく一方の財産ですが、賃貸物件なら運用次第で家賃収入を得られます。相続後に子どもが不動産投資で稼げるお金に相続税は適用されないため、財産の拡大や相続後の生活保障を考えるなら入居率や賃貸需要の安定した物件を探しましょう。
相続税対策を行う上で脱税を疑われないためのポイント
投資用不動産を相続したらすぐ売らずに運用する
相続の数年前に親が購入した不動産、または親の援助を受けて購入した不動産を相続後すぐに売却すると、「一時的に財産を不動産に変えて相続税を逃れ、現金化するのが目的だったのでは?」と疑われてしまいます。何年不動産を維持すれば良いという明確な基準はありませんが、不動産投資で節税するなら売らずに運用して利益を増やしましょう。
親子間融資では契約書を作る
親子間融資で不動産購入資金の援助を行う場合、融資の内容を契約書に残しておくことが重要です。あるとき払いの無利子など、融資の条件によっては借金に見せかけた贈与だとみなされる場合もあるため、貸主・借り主双方の署名が必要な金銭消費貸借契約書を結び、市場に照らし合わせた妥当な金利を設定することをおすすめします。第三者への融資でも通用する条件にするのが基本です。
まとめ
相続税を節税したいのなら、
- 親が購入した不動産を子に相続させる
- 非課税の特例や親子間融資を駆使して子が投資用物件を購入する
といった方法を使えば可能です。
ただし、贈与や融資の内容によっては節税行為が脱税とみなされ、課税の対象になる場合もあるため注意が必要です。
また、節税対策で手に入れた不動産の収益性が低いと、せっかくの財産が減ってしまいます。不動産投資による相続税対策の効果を高めるためにも、実行する際は不動産や契約の専門家の手を借りましょう。